妊娠を考え始めたとき、まず思い浮かぶのは、葉酸の摂取や食事、生活習慣の見直し、不妊治療や婦人科での相談かもしれません。
一方で、妊活を始める前から「腰痛がある」「骨盤まわりが重い・だるい」「生理のたびに体調が崩れる」「疲れやすく、身体がいつも緊張している」といった不調を抱えている方も少なくありません。
こうした不調があると、「身体を整えてから妊活を始めたい」「妊娠前に身体を整えることにはどのような意味があるのだろうか」と感じる方もいらっしゃると思います。
フランスでは、オステオパシー(Ostéopathie)は妊娠中だけでなく、妊娠前の身体ケアにおいても、補完的な選択肢のひとつとして利用されています。
この記事では、妊活前の身体づくりとして何が大切なのか、そしてオステオパシーがどのような考え方で関わるのかを、わかりやすく解説します。
妊娠前のケアでまず重要なのは、妊娠しやすさだけではなく、妊娠後の母体や赤ちゃんの健康も見据えて身体を整えておくことです。
WHOは、神経管閉鎖障害の予防のため、妊娠を考えている女性に対して、妊娠を試みる時点から妊娠12週まで葉酸400μg/日の摂取を勧めています。NHSも、妊娠を希望する段階から、葉酸摂取、禁煙、飲酒を避けること、服薬内容の確認、持病の相談などを案内しています。
(参照:WHO-Periconceptional folic acid supplementation to prevent neural tube defects)
(参照:NHS-Planning your pregnancy)
つまり、妊活前に大切なのは、特定の部位だけを見ることではありません。
栄養、睡眠、体重、喫煙・飲酒、服薬、ストレス、婦人科的な不調、慢性的な痛みなどを含めて、身体全体を整えていくことが大切です。
オステオパシーは、その中で「身体の緊張や痛み、動きにくさ、不快感」に対して寄り添う、身体を整えるためのケアとして考えるのが自然です。

妊娠前の身体の状態は、妊娠後の母体だけでなく、赤ちゃんの発育環境にも関係してくる可能性があります。
妊娠中、母体の胸郭や背骨、骨盤の動きが制限されている場合や、身体の緊張が強い状態が続いていると、子宮内の環境や、お腹の中の赤ちゃんの姿勢バランスにも影響することがあります。
また、出産時の経過や圧力のかかり方は、赤ちゃんの頭蓋骨や背骨の状態に関係することがあります。
赤ちゃんの頭蓋骨や背骨の状態は、身体の動きだけでなく、神経系を含む身体全体の機能との関連という観点から評価されることがあります。
神経系は、運動機能、消化機能、呼吸機能をはじめとするさまざまな生理機能の調節に関与しています。そのため、乳児の評価においては、頭蓋骨や脊柱の状態に加え、神経系および各器官系の機能も含めて包括的に観察することが重要です。
実際に、フランスでは出産後すぐ、または1ヶ月検診後から赤ちゃんの身体を評価し、オステオパシーで成長に合わせてケアを行っていくケースも多く見られます。
寝返りやハイハイ、歩行といった発達段階の中で、骨格や可動性、神経系や身体機能の働きに問題がないかを確認しながら、必要に応じて調整していく考え方です。
こうした背景から、妊娠前の段階で母体の身体を整えておくことは、妊娠中の負担軽減だけでなく、赤ちゃんにとってもよりよい環境を整えるうえで、大切な意味を持つと考えられます。
妊活前の時期には、まず医療的に優先度の高い基本事項を押さえておくことが大切です。
生活習慣の改善、禁煙、飲酒を控えること、持病や服薬がある場合は事前に医師へ相談することは、妊娠前ケアの基本とされています。
一方で、妊活中の女性には、検査では大きな異常がないものの、日常生活の快適さを下げる不調が重なることがあります。
- 腰痛
- 骨盤まわりの違和感
- 生理痛
- 慢性的な肩こりや背中の張り
- 呼吸の浅さ
- ストレスによる睡眠の質の低下
こうした不調は、妊娠そのものを直接妨げる原因と断定できるものばかりではありません。
しかし、日常の活動量や睡眠、心身の余裕に影響するため、妊娠前に整えておく意味は十分にあります。
オステオパシーは、そのような「病院治療の対象になる症状ではないけれど、身体がつらい」という状態に対して、身体の負担に寄り添うケアです。

オステオパシーの基本原則のひとつに、身体はひとつの統合体として機能しているという考え方があります。
そのため、妊活前の身体ケアにおいても、「骨盤だけ」「子宮だけ」と局所的にみるのではなく、骨盤、背骨、股関節、胸郭、呼吸、筋膜、疲労やストレスの影響なども含めて全体を評価していきます。
妊活前の時期は、見た目には大きな異常がなくても、身体の緊張が強い、呼吸が浅い、可動性が落ちている、疲れが抜けにくい、自律神経のバランスが乱れやすいといった状態が重なっていることがあります。
こうした状態が続くと、身体は本来の自然な機能を十分に発揮しにくくなります。
つまり、妊娠前の身体をより快適で整った状態に近づけるために、オステオパシーを妊活の補完的なケアとして捉えることができます。
(参照:The Role of Osteopathic Care in Gynaecology and Obstetrics: An Updated Systematic Review)
デスクワークや運動不足、過去の腰痛、生理前後の緊張などによって、骨盤や股関節、腰まわりが動きにくくなっていることがあります。
こうした部位のこわばりは、痛みそのものだけでなく、立つ・歩く・座る・寝返りを打つといった日常動作のしづらさにもつながります。
オステオパシーでは、骨盤だけを単独でみるのではなく、股関節や仙骨、腰椎との連動も含めて確認し、身体の一部に負担が集中しにくい状態を目指します。
ストレスや疲労が続くと、呼吸が浅くなり、胸郭や背骨の動きが小さくなることがあります。
オステオパシーでは、胸郭や横隔膜の動きも含めて評価し、呼吸しやすさや体幹の緊張バランスを整える方向で考えます。これにより、全身の緊張をやわらげ、日常生活をより過ごしやすい状態を目指します。
妊活前の相談で少なくないのが、生理痛や月経時の腰痛、下腹部の張り感です。
2024年の系統的レビューでは、オステオパシー手技療法が、月経痛の強さや持続時間、鎮痛薬使用の減少、QOL改善に寄与する可能性が示されています。1
慢性的な骨盤痛や婦人科系の不快感については、徒手療法や包括的なケアによって痛みやQOLが改善する可能性を示す報告があります。2
また、子宮内膜症に関連した研究では、QOL改善や症状軽減が示唆されています。3
妊娠前の時期は、妊活への不安や生活上のストレス、慢性的な疲労などによって、自律神経のバランスが乱れやすい時期でもあります。
自律神経は、睡眠、呼吸、消化、体温調整、ホルモン分泌、内臓の働きなど、身体の土台となる機能に広く関わっています。
そのため、自律神経が整いやすい状態をつくることは、妊娠前だけでなく、妊娠中や婦人科系の不調を抱える時期においても、身体全体を安定した状態へ導くうえで大切です。
また、自律神経は子宮や卵巣を含む骨盤内臓器の働き、骨盤内の血流、ホルモンバランス、消化器系や呼吸器系の機能とも関係しています。妊娠前から自律神経が整いやすい身体の状態を目指すことは、妊娠中の身体の変化に対応しやすくするうえでも、婦人科系の働きを支えるうえでも大切な視点です。
オステオパシーでは、背骨、胸郭、横隔膜、頭蓋、骨盤など全身の連動をみながら、過剰な緊張を和らげ、神経系がより働きやすい状態を目指します。
フランスでは、オステオパシーは法的枠組みの中で位置づけられており、一定の教育・資格要件のもとで提供されています。
そのため、痛みや不調に対する補完的な身体ケアとして、妊娠中や産後だけでなく、妊娠前の時期にも相談されることがあります。
また、フランスでは、特定のケースにおいて、医師や婦人科・産婦人科医が、身体の痛みや機能面の問題に対してオステオパシーによるケアを受けるよう患者に助言する例も多くあります。
これは、オステオパシーが医療の代替だからではなく、適切な医療管理のもとで、身体機能を整える補完的なケアとして位置づけられているためです。
妊活前の不調に対しても、検査や診断が必要な症状を見逃さないことが最優先になります。
(参照:Légifrance – Code de la santé publique / usage du titre d’ostéopathe 関連)

妊活前のオステオパシーは、たとえば次のような方に向いています。
- 妊活を始めたいが、腰痛や骨盤まわりの違和感が続いている方
- 生理前後に腰や下腹部の緊張が強く、日常生活がつらい方
- デスクワーク中心で、股関節や骨盤まわりが固まりやすい方
- ストレスや疲労が強く、睡眠の質や呼吸の浅さが気になる方
- 検査で大きな異常はないが、身体の使いにくさを整えておきたい方
妊娠を考える時期の身体を、少しでも快適で、無理が少なく本来の自然な状態に整えていくことを目的にしています。
妊活は心身の負担が大きくなりやすいため、身体の不調を放置せずにケアすることには意味があります。
妊活前の不調がある場合でも、次のようなケースでは、まず婦人科・産婦人科など医療機関での相談を優先してください。
- 月経不順や無月経が続く場合
- 強い生理痛や性交痛がある場合
- 子宮内膜症、子宮筋腫、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などが疑われる場合
- 不正出血がある場合
- 強い下腹部痛が続く場合
- 持病や服薬がある場合
- 妊娠を希望しているのに一定期間妊娠しない場合
このようなケースでは、オステオパシーだけで判断せず、まず原因の確認を行うことが大切です。
オステオパシーは、医学的な診断や治療に代わるものではなく、それらを補う立場で考えるべきケアです。NHSも妊娠前の服薬や既往症の確認を勧めています。
(参照:NHS-Planning your pregnancy)
妊活前のオステオパシーは、生活習慣の見直しや婦人科での相談といった標準的な妊娠前ケアに代わるものではありません。
その一方で、妊活前に多い腰痛、骨盤まわりの違和感、慢性的な緊張、疲労、呼吸の浅さ、自律神経の乱れなどに対して、全身を整え、より自然に機能しやすい状態へ導くための補完的なケアとして取り入れることが可能です。
オステオパシーは、骨格筋肉系の痛みや可動性だけでなく、血流、神経系、呼吸、内臓の働きなど、身体全体のつながりをみながら整えていくことを大切にしています。
身体全体の機能が向上し、本来の自然な状態へ近づいていくことは、妊娠を考える時期の身体づくりにおいても大切な意味を持ちます。
大切なのは、オステオパシーを「妊娠期だけの施術」と考えるのではなく、母子の健康を考える時期の自分の身体と心に丁寧に向き合い、より良いコンディションで毎日を過ごすための選択として捉えることです。
身体の不調を我慢せず、無理の少ない状態へ整えていくことは、妊活期を心身ともに少しでも穏やかに過ごすことにもつながり、母子の健康を見据えた身体づくりの土台にもなっていきます。
資格
フランス政府保健省認可校パリCSO (Conservatoire supérieur d’Ostéopathie) にて、オステオパシー国家資格 (D.O.) 取得
経歴
東京都出身。
パリのオステオパシー学校CSOで5年間にわたり、医学理論とオステオパシー技術を習得。新生児・小児、妊娠期、アスリート、がん患者など、多岐にわたる専門カリキュラムと臨床経験を修了。
パリでオステオパットとして従事した後、現在は東京を拠点とし、様々な国籍の方々に施術を行う。
