首の痛みは、現代人にとって非常に身近な不調のひとつです。
デスクワークやスマートフォンの使用時間が増えたことで、慢性的な首こりや痛み、違和感に悩む方は年々増えています。
整形外科を受診してレントゲンやMRIを撮っても、「骨には異常がありません」「しばらく様子を見ましょう」などと言われ、湿布や痛み止めで経過観察になるケースも少なくありません。
しかし、「画像検査で異常が見つからない=問題がない」とは限りません。
では、そのような首の痛みに対して、オステオパシーはどのような視点でアプローチするのでしょうか。
本記事では、海外の研究や臨床データをもとに、オステオパシーの考え方と、首の痛みへの効果の可能性について分かりやすく解説します。
オステオパシーは19世紀後半にアメリカで生まれた手技療法で、「身体はひとつのつながったシステムであり、本来は自ら調整・回復する力を持っている」という考え方を基盤としています。
オステオパシーの特徴は「痛みのある場所=原因の場所とは限らない」という視点で身体全体を見ていく点にあります。
ヨーロッパ、特にフランスでは国家資格(オステオパス)として制度化されており、筋肉や関節だけでなく、神経・循環・呼吸といった全身の機能・バランスを評価しながら、不調の改善を目指すケアの一つとして知られており、首などの慢性的な不調に対して、医療機関での対応とあわせてオステオパシーを利用する方もいます。

医学的に見ると、首の痛み(頸部痛)の多くは「非特異的頸部痛」と呼ばれるカテゴリーに分類されます。
これは検査で、「骨折」「明らかな神経の圧迫」「感染症や腫瘍」といったはっきりとした異常が確認できないにも関わらず痛みが続く状態を指します。
首の痛みは、骨や椎間板だけの問題ではなく
- 筋肉や筋膜の緊張(首のこりや張りなど)
- 関節のわずかな動きの悪さ
- 神経が過敏になっている状態
- ストレスや睡眠不足などの心理的要因
といった複数の要素が重なって生じることが多いため、痛みの原因が特定できないことが多くなります。
しかし、オステオパシーでは首の痛みを単独の症状ではなく、身体全体のバランスの乱れとして捉え、首だけではなく、頭部や腰部など他の箇所も合わせて診察を行ないます。
オステオパシーでは「首が痛いから首だけを施術する」という考え方はしません。
首の痛みには、次のような身体全体の要素が関係していることが多いためです。
・胸椎や肋骨の硬さ
胸の動きが悪くなると、首が代わりに動きすぎて負担が集中します。
・肩甲骨や鎖骨の動き
肩甲骨がうまく動かないと、首や肩の筋肉が常に緊張しやすくなります。
・骨盤や体幹のバランス
身体の土台が崩れると、背骨全体のバランスが乱れ、首にも影響します。
・呼吸や自律神経の状態
浅い呼吸やストレスは、首・肩のこわばりを強める原因になります。
特に以下のような悩みを持つ方にオステオパシーは検討されています。
- デスクワークで首や肩が常に重い
- スマホを見る時間が長く、首の付け根がつらい
- 首こりがひどく、後頭部が重だるくなる
- 姿勢が悪い、ストレートネックと言われたことがある
- マッサージを受けてもすぐ元に戻ってしまう
- 病院で「異常なし」と言われたが不調が続いている
このようなケースでは特に、首以外の部位や身体の使い方が影響している可能性も考えられます。

慢性的な首の痛みを対象とした海外のランダム化比較試験(RCT)では、約4~6週間にわたって3~4回のオステオパシー手技を行なった結果、痛みや機能障害の軽減に加え、睡眠、疲労感、抑うつと言った関連症状の改善が認められたと報告されています。
同研究の結論では、オステオパシーは首の痛みおよび機能障害の軽減に寄与し、比較的安全性が高く、コスト面でも合理的な選択肢であることから、慢性的な痛みに対するマネジメントの一手段として推奨され得るとまとめられています。
参考:PMC https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9054945/
また、運動療法にオステオパシーを組み合わせた研究では、運動のみの場合に比較して、痛みが軽減され、機能障害が改善されると報告されています。
参考:PMC https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32507144/
首の痛みに対するオステオパシーでは、状態に応じて次のような手技が組み合わされます。
1.頭蓋骨・顎関節へのアプローチ
頭蓋骨や顎関節は、首の筋肉や神経、自律神経の働きと密接に関係しており、噛みしめや歯ぎしり、姿勢の崩れなどが続くことで、首などの不調に繋がることがあります。
このアプローチでは、頭蓋骨のわずかな動きや顎関節周辺の動きを確認し、調整を行ないます。強い力を加えることなく、神経系の過剰な緊張を落ち着かせ、全身がリラックスしやすい状態を目指します。
2.呼吸や横隔膜へのアプローチ
呼吸に関わる横隔膜や胸まわりの緊張は、自律神経の働きや首・肩の筋緊張に影響することがあります。このアプローチでは、呼吸がしやすくなるように体幹や胸郭の動きを整え、全身のリラックスや緊張の緩和を目的とします。
首の痛みが長引いている方や、ストレスや疲労を感じやすい方に用いられることが多い手技です。
3.筋膜・軟部組織(ソフトティシュー)
筋肉や筋膜(筋肉を包む薄い膜)、または軟部組織に対して、やさしい圧や刺激を加え、こわばりや緊張を和らげていく手技を使用します。首や肩まわりの筋肉は、長時間のデスクワークや緊張状態が続くことで硬くなりやすく、血流や神経の働きが低下する原因になります。
強い力を使わず、身体が自然にゆるむように調整していくため、刺激が苦手な方にも比較的受けやすい施術です。
4.状態に応じた関節マニピュレーション(HVLA)
HVLAは、関節の動きが制限されている場合に、瞬間的で小さな動きを加えて可動性を回復させる手技です。いわゆる「音が鳴ることがある施術」として知られていますが、必ずしも音を鳴らすことが目的ではありません。
事前の診察で適さないと判断された場合、無理に行うことはありません。
5.筋エネルギー法(MET)
筋エネルギー法(MET)は、患者さん自身の筋肉の力を軽く使いながら行う施術です。施術者の指示に合わせて、「軽く力を入れる → 力を抜く」という動作を繰り返すことで、偏った筋肉の緊張を緩め、関節の可動性を上げます。
自分の力を使うため、体への負担が少ない手技として知られています。
6.関節の動きを整えるモビライゼーション
関節をゆっくりと動かしながら、関節の動きの悪さ(可動制限)を改善させ、関節周囲の体液の流れを促進させます。同時に組織の老廃物除去を促進させ、栄養を供給する効果もあります。モビライゼーションは、小さく・安全な範囲で関節を動かす方法なので、急な動きや強い刺激が不安な方にも適しています。

オステオパシーの施術は、いきなり首を施術するのではなく、現在の状態を丁寧に確認したうえで、身体全体のバランスを見ながら段階的に進めていくことが特徴です。
一般的な流れは以下の通りです。
1.問診・検査
痛みの出方や生活習慣、姿勢、既往症を確認します。2.全身の評価
首だけでなく、頭蓋骨・肩・背中・骨盤・呼吸の状態をチェックします。3.状態に合わせた施術
無理のない方法を選び、必要な手技を組み合わせます。4.日常生活のアドバイス
姿勢やセルフケアについて簡単にお伝えします。
オステオパシーは、首の痛みを「首だけの問題」としてではなく、身体全体の機能・バランスの乱れとして捉える手技療法です。
首の痛みに対して一定の有用性が示されている一方で、すべてのケースで同じ結果をもたらすものではありません。こうした背景から、個々の症状や生活背景に応じた施術アプローチを行うオステオパシーが、信頼できる選択肢として活用されていると言えます。
資格
フランス政府保健省認可校パリCSO (Conservatoire supérieur d’Ostéopathie) にて、オステオパシー国家資格 (D.O.) 取得
経歴
東京都出身。
パリのオステオパシー学校CSOで5年間にわたり、医学理論とオステオパシー技術を習得。新生児・小児、妊娠期、アスリート、がん患者など、多岐にわたる専門カリキュラムと臨床経験を修了。
パリでオステオパットとして従事した後、現在は東京を拠点とし、様々な国籍の方々に施術を行う。
