出産後、腰や骨盤まわりの痛みが続き、「出産が終われば自然に良くなると思っていたのに」「産後だから仕方がないのかな」と感じている方もいるのではないでしょうか。
産後は身体が回復していく一方で、日常生活の動作も大きく変化する時期です。腰や骨盤周辺に痛みがあると、立ち上がりや寝返りなど、普段の何気ない動作をつらく感じることがあります。
日本の産後1年以内の女性98人を対象とした調査では、66%に腰痛または骨盤帯痛が確認されました。一方、痛みがある女性のうち医療機関などへ相談した経験がある人は9%で、56%は専門家への相談を希望していました。
参考:Gap between the prevalence of and consultation rate for lumbopelvic pain in postnatal Japanese women(2024年・PubMed)
本記事では、「腰痛」と「骨盤帯痛」の違いを整理しながら、産後の痛みについて現在の研究から分かっていること、一般的な対応、そして、オステオパシーが産後の身体にどのようなケアの選択肢となり得るのかをご紹介します。
産後に感じる腰や骨盤周辺の痛みは、すべて同じものとは限りません。
一般的に「腰痛」は腰部に感じる痛みを指します。
一方、「骨盤帯痛」は、骨盤の前側や後ろ側に感じる痛みで、仙腸関節や恥骨結合の周辺に現れることがあります。場合によっては、臀部や股関節、鼠径部、大腿部などにも痛みを感じます。

妊娠中に腰や骨盤周辺の痛みを経験しても、多くの場合は出産後の時間経過とともに軽減していきます。
一方で、産後数か月以降まで痛みが続く人がいることも報告されています。
2026年に発表された日本の研究では、妊娠35週の時点ですでに腰・骨盤部の痛みがあった女性209人を産後4か月まで追跡しています。
その結果、101人、約48%が産後4か月にも痛みを報告しました。
ただし、この研究の対象は、妊娠後期の時点ですでに腰や骨盤周辺に痛みがあった女性で、すべての方に当てはまるわけではありません。
参考:Risk factors for persistent postpartum low back and pelvic pain: a prospective cohort study focusing on trunk muscle mass, delivery mode, and prepregnancy physical activity(2026年・BMC Pregnancy and Childbirth)
また、英国王立産婦人科医会(RCOG)では、妊娠に関連した骨盤帯痛は通常出産後に改善するものの、一部では痛みが続くこともあると説明しています。そのため、「産後○か月なら必ず良くなる」と一律に考えるのではなく、一人ひとりの身体の状態や経過を確認することが大切です。
産後の腰痛や骨盤帯痛について、「出産で骨盤が開いたから」「骨盤が歪んでいるから」と説明されることがあります。
しかし、産後の腰痛や骨盤帯痛を一つの原因だけで説明することはできません。
日本の産後女性を対象とした研究では、妊娠前や妊娠中に腰痛があった人では、産後にも腰・骨盤周辺の痛みがみられやすいことが報告されています。
つまり、産後になって突然痛みが始まる場合だけではなく、妊娠前や妊娠中からの状態が産後の痛みに関係している場合があります。
妊娠中の腰痛・骨盤痛については、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。
オステオパシーによる妊娠中の腰痛・骨盤痛へのアプローチ
産後の腰痛や骨盤帯痛が残ったり悪化したりする要素として、腰痛の既往、身体機能、複数部位の痛み、心理社会的な要素、骨盤周辺の状態など、さまざまな要因について研究されています。
2026年に発表された日本の研究では、ほかの要因も考慮すると、産後早期の体幹筋量と産後4か月まで続く痛みとの明確な関連は確認されませんでした。これは「体幹の筋肉は関係しない」という意味ではありません。
この研究で調べられたのは筋力ではなく筋量であり、産後の痛みを単純に「筋肉が落ちたから」といった一つの理由だけで説明できないことを考えるうえで参考になる結果です。
参考:Postpartum low back pain/pelvic girdle pain: frequency, factors associated with persistence and/or exacerbation, and treatment(2026年・J-STAGE)
妊娠・出産に伴って腰や骨盤周辺にはさまざまな変化が起こります。
だからこそ、一つの原因に絞るのではなく、一人ひとり異なる身体の状態をみていくことが大切です。

産後の腰や骨盤周辺の痛みに対しては、痛みの程度や身体の状態を確認しながら、その人に合った対応を選ぶことが重要です。
痛みが強い場合や長期間続いている場合、日常生活に大きな支障がある場合には、医療機関で他の原因がないか確認することも大切です。
また、産後の腰・骨盤周辺の痛みに対しては運動についても研究が進んでいます。
2026年に発表された研究では、産後の腰・骨盤周辺の痛みに対して体幹部の安定性を目的とした運動を検討した15の研究がまとめられました。
その結果、痛みや日常生活上の機能について改善を示す結果が報告されています。
ただし、産後の身体の回復には個人差があるため、痛みの程度や体調に合わせて、無理のない範囲で進めることが大切です。
参考:The effects of core stabilizing exercise in postpartum women with lumbopelvic pain: A systematic review with meta-analysis(2026年・PubMed)
オステオパシーの基本的な考え方のひとつに、身体をひとつの統合体として捉える考え方があります。そのため、産後に腰が痛い場合でも、腰だけを局所的にみるのではなく、身体全体の状態を確認していきます。
産後の腰痛・骨盤帯痛に対して、当院では腰部や骨盤周辺だけでなく、足部から頭部までを含めた身体全体の状態を確認します。
さらに、妊娠前や妊娠中の症状、出産後の経過、既往歴、普段の生活や身体の使い方についても伺い、一人ひとり異なる身体の状態をみていきます。
そのため、骨盤だけに原因を求めるのではなく、腰部や骨盤周辺を含めた身体全体の状態を確認していきます。
オステオパシーでは、特定の部位だけに注目するのではなく、身体全体のつながりを確認しながら、それぞれの方に合わせて施術方針を考えていきます。
こうした全身をみる視点は、妊娠・出産を経た産後の身体を考える際にも、オステオパシーの特徴のひとつです。
オステオパシーの基本的な考え方についてはこちらをご覧ください。
オステオパシーとは
では、産後の腰痛に対するオステオパシーについて、実際の研究ではどのような結果が報告されているのでしょうか。

産後の腰痛に対するオステオパシーについては、産後女性を直接対象とした臨床研究も行われています。
これらの研究では、オステオパシーを受けた女性で、痛みや日常生活上の機能について改善を示す結果が報告されています。
2015年には、妊娠に関連して始まった腰痛が出産後3か月以上続いていた女性80人を対象に、オステオパシーを受けるグループと待機するグループを比較した研究が報告されています。
40人ずつの2グループに分けられ、オステオパシーを受けるグループでは2週間間隔で計4回の施術が行われました。
その結果、オステオパシーを受けたグループでは、待機したグループと比べて、痛みと日常生活上の障害の両方で改善が報告されました。
産後の腰痛を直接対象とした比較研究で、このような改善が報告されていることは、産後ケアにおけるオステオパシーの可能性を考えるうえで参考になる結果です。
参考:Osteopathic Manipulative Therapy in Women With Postpartum Low Back Pain and Disability: A Pragmatic Randomized Controlled Trial(2015年・Journal of Osteopathic Medicine)
この1つの研究だけですべてを結論づけることはできませんが、実際の産後女性を対象とした研究で前向きな結果が得られたことは注目されます。
2017年には、妊娠中および産後の腰痛・骨盤帯痛に対するオステオパシーの複数の研究をまとめて検討したレビューが発表されています。
産後については3つの研究が含まれ、痛みの軽減と身体機能の改善について、オステオパシーを支持する結果が報告されました。
複数の研究をまとめた結果でも、痛みや身体機能の改善を支持する結果が報告されていることから、産後腰痛に対するオステオパシーは、今後さらに研究が期待される分野といえます。
参考:Osteopathic manipulative treatment for low back and pelvic girdle pain during and after pregnancy: A systematic review and meta-analysis(2017年・PubMed)
2025年には、オステオパシーについてこれまで発表された複数の研究レビューを、さらに総合的に検討した研究が発表されています。
この研究では27件のレビューが検討され、産後腰痛についても、オステオパシーが症状の軽減に役立つ可能性があると紹介されています。
今後さらに研究を重ねる必要はありますが、近年の研究を総合しても、産後腰痛に対するオステオパシーの有効性を示す結果が報告されています。
参考:An overview of systematic reviews on the efficacy and safety of osteopathic techniques(2025年・PubMed)
これまでの研究から、産後腰痛を対象とした比較研究があり、オステオパシーを受けた女性で痛みや日常生活上の機能に改善を示す結果が報告されています。
複数の研究でも、痛みや身体機能の改善を支持する結果が報告されています。
こうした結果から、オステオパシーは産後の腰痛に対するケアの選択肢として、期待される分野であると言えます。
一方で、産後の腰や骨盤周辺の痛みの中には、オステオパシーの施術よりも医療機関での確認を優先すべき場合があります。
米国疾病予防管理センター(CDC)は、妊娠中から出産後1年以内にも重大な合併症が起こる可能性があるとして、注意すべき警告サインを示しています。
次のような症状がある場合には、早めに医療機関へ相談してください。
- 治まらない、または悪化していく強い頭痛
- 38℃以上の発熱
- 胸の痛みや強い動悸
- 治まらない強い腹痛
- 多量の出血
このような症状がある場合や、「いつもの腰痛とは違う」「何かおかしい」と感じる場合は、オステオパシーなどの施術を検討する前に医療機関へ相談してください。
また、腰・骨盤周辺の痛みが長く続いている場合にも、他の疾患が関係していないか医療機関で確認することが大切です。
参考:Urgent Maternal Warning Signs and Symptoms(米国CDC)
産後の腰痛や骨盤帯痛は、日本人女性を対象とした研究でも報告されており、妊娠中からの痛みが産後まで続く方もいます。
産後の腰痛や骨盤帯痛は、一つの原因だけで説明できるものではありません。
現在の研究では、妊娠前や妊娠中からの腰痛、身体の状態、出産に関連する要素など、さまざまな要因が関係している可能性が示されています。だからこそ、産後の身体を一部分だけでなく、全体としてみていくことが大切です。
オステオパシーでは、腰や骨盤だけに注目するのではなく、足部から頭部までを含めた身体全体の状態を確認し、一人ひとりに合わせた施術を考えていきます。
産後の腰痛に対する研究でも、オステオパシーを受けた女性で痛みや日常生活上の機能に改善を示す結果が報告されています。
オステオパシーは必要な医療を置き換えるものではありませんが、必要な医学的治療と併用しながら身体の状態を整えることができます。
一方で、医学的な治療を必要としない場合には、オステオパシーによって身体全体の状態を確認し、痛みや身体機能の改善をしていきます。産後の腰や骨盤周辺の痛みが続いている場合には、「産後だから仕方がない」と我慢を続けるのではなく、ご自身の身体の状態に合ったケアを検討しましょう。
資格
フランス政府保健省認可校パリCSO (Conservatoire supérieur d’Ostéopathie) にて、オステオパシー国家資格 (D.O.) 取得
経歴
東京都出身。
パリのオステオパシー学校CSOで5年間にわたり、医学理論とオステオパシー技術を習得。新生児・小児、妊娠期、アスリート、がん患者など、多岐にわたる専門カリキュラムと臨床経験を修了。
パリでオステオパットとして従事した後、現在は東京を拠点とし、様々な国籍の方々に施術を行う。
